兵助は 庭の花壇に種を蒔いている
私の祖父と 呑気に談笑しながら

女子でも珍しい程にもっさりとした長髪以外は この時代に居てもおかしくはない外見
すっかり馴染んでしまったご様子で・・・



、ちょっと郵便局に行ってくれんか?」

縁側に座っていた私に 祖父がそう言った
これでは 兵助と私、どちらが本当の孫か分からないではないか

「…あの小包を出せばいいの?」

祖父が頷いた
郵便局まで自転車で二十分、面倒臭いが正直暇なので 断る理由も無い


廊下に置いてある小包を抱えて ちらりと庭に目をやると 兵助と目が合った
その瞬間 彼が微笑んだ




「私ばかりが動揺して…嫌になる」


自転車の前かごに小包を投げ入れ 蝉の鳴き声をBGMにペダルを漕いだ






15 decision








此処には 見た事の無い花が沢山咲いている
鮮やかでとても綺麗だが 周囲の景色と合っていない気もする


「ところで 君はの事をどう思っているのかね」

のおじいさんが 小声で呟いた

は出掛けたから大丈夫じゃ!さぁ!本音を」
「さぁ!…と言われましても…良い人だと思いますが…」

初めは胡散臭い、怪しい女だと思っていた事は伏せておこう

「あの子は些か気難しいからな〜」
「突っ走りがちですよね」
「おお兵助くん、よく解ってるじゃないか」
「…いやぁ それほど知っている訳ではないですよ」


が初めから同じ空間に居たら 良かったのかもしれない
…いや 彼女がくの一教室に在籍していたら 俺の手には負えないツワモノになってしまうか

くの一教室のおなごは 個人的にちょっと怖い
峠の茶屋に居るおなごは 美人だが、ただそれだけだ


には 不思議な感情を抱いている

好いているのは確かだが それが恋慕的なものなのかは分からない
そもそも 彼女は此処に居るべき人間で 俺は此処に居てはいけない人間なのだ
俺は心の何処かで 箍を外すまいとしているのかもしれない


だが 俺がずっとこの場に居たら状況はどうなるのだろう



「兵助くん」

「・・・・あっ はい!?」

からは 浮いた話ひとつ聞いた事が無かった、女っ気もさほど無い
 だが 君が居ればきっとは…力を無くしても楽しくやって行けるんだろうなぁ」

それは どういう事なのか
おじいさんは 俺を此処に留めておきたいのだろうか


「しっかし…暑いのう」
「…夏ですからね」


額から 汗が滴り落ちた







*  *  *







「あ、ずるい スイカ食べてる」


からくりに跨ったが帰ってきた
おじいさんは陽の当たらない部屋で 昼寝をしている

「おじいさんに戴いて」
「私のぶんは?」
「すまん、もう残ってない」
「…………」



色々と思案に暮れてみた結果だろうか、今迄よりも と離れたくないと思ってしまう
箍を外すまい、なんて考えるのは 逆効果かもしれない



「こうして私達は平和ボケしていくのよ」
「あぁ…こうしてスイカを食べていると 確かに乱世の血腥さを忘れかけるな」
「…私が言える立場じゃないかもしれないけれど、元の世界から逃げちゃ駄目だよ」


――逃げ? 俺は逃げたいなんての前で言っただろうか


「戦も無いし居心地はいいけど やっぱり此処に兵助が居るのはおかしい
 連れて来てしまったのは私のミス、だから責任を持って私が貴方を帰す」

「…急に真面目になっちゃって どうしたの」
「私の夏休みもそろそろ終わる、だから もう…」


何故 は泣いているんだ

威勢のいい科白を言ったと思いきや 俺の腕を掴んで涙をぼろぼろと零している



「元の時代に 帰ろう、兵助」







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(10.3.19)